加藤一二三九段の引退について

 加藤一二三九段の引退が事実上決定した。加藤九段の実績については将棋ファンにとっては周知だろうが、アウトデラックスマスコットキャラクターとしてひふみんを知った方々のために改めてその一部を挙げてみよう。

 ・史上最年少棋士として、14歳という若さでプロデビュー(この年少記録は昨年藤井四段に破られるまで62年間守られ続けた)
 ・18歳でA級リーグ(最上位クラス)、八段(最高段位)となる
 ・通算1300勝達成
 ・タイトル戦登場24回、タイトル獲得8期、棋戦優勝23回、A級以上36期

 上記のような超一流の実績を持つ棋士が、若手・ロートルがひしめくC級2組リーグ戦を戦い、敗れ、降級点を3回取って引退となった。これは異常で特異な事実である。

 将棋界の超一流と呼ばれる棋士達は、自らトーナメントプロを辞するのがこれまでの将棋界の慣わしであった。

 加藤九段のライバルである中原永世名人はA級陥落後、B級1組で2期指した後、フリークラス宣言をし、トーナメントプロの第一線から自ら退いた。米長永世棋聖はA級陥落後、すぐにフリークラス宣言し、ほどなく現役を引退した。二上九段にしても同じだ。

 名人経験者がC級リーグで指すという、超例外的な例を私達は観ていたのである。

 この超例外的な例が実現したのは、単に加藤九段が現役にしがみついたからではなく、それが望まれた結果だったからである。

 つまり、加藤九段がなぜ最高齢対局記録及び最高齢勝利記録を達成できたのかというと、「加藤九段が自主的に引退しなかった」からではなく、「将棋ファンが加藤九段の将棋を、対局する姿を、ずっと観ていたいと思った」からである。

 銀の使い方に特徴のある重厚な攻め将棋。空打ち空咳、一手一手気迫のこもった振りかぶった指し手。実績と対照的なそのキャラクター。

 加藤一二三九段はその数々の魅力的な要素をもって、棋士としての散り方を自ら選ぶことを勝ち取ったのである。



 最後に、羽生善治の言葉を引いて終ろう。

「才能とは、一瞬のひらめきやきらめきではなく、情熱や努力を継続できる力だ。」